Trust meのコミュ5の話。
皆さんこんにちは。 皆さんはもうTrust meのコミュ5話をご覧になったでしょうか?
見たという方もそうでない方も是非ともこのブログを読んで更に佐久間まゆ、喜多日菜子についての理解を深めて欲しいと思います。
※ネタバレ注意
「日菜子の抱いた疑問」
コミュの序盤、まゆと日菜子はライブ前に関わらずプロデューサーとクリスマスの約束をし、浮かれ気分になってしまいます。そこをプロデューサーに「今は来てくれた人のことだけを考えて」と窘められます。
改めて反省するまゆと日菜子。それから日菜子は、プロデューサーの発言を受けてある疑問が浮かびます。
『日菜子は王子様に見つけてもらうためにアイドルになったけど、見つけてもらったあとはどうすればいいのだろう』と。
アイドルになったのはあくまでその手段で、本当の目的は王子様に見つけてもらうことにある。本当の目的の達成は、手段としてあるべき姿と矛盾を孕みます。
じつは同じコンテクストでまゆを語ることもできます。これは後にお話致します。
「まゆさん、運命の人と、アイドルであること…どちらかを選ばなくちゃならなくなったら…どうしますか〜?」
副題は作中での日菜子のセリフです。思い浮かんだ疑問を踏まえ、まゆP、そしてまゆ以外のPも感じていたこの疑問を日菜子は単刀直入に投げかけます。アイドルとは基本的に恋愛禁止が常套。二者択一が常に迫られるまゆが一体どのような選択をするのか、甚だ疑問であった人も多かったと思います。そんな中まゆは作中、こんな答えを出します。
『……ごめんね、日菜子ちゃん。まゆは……その問いかけに答えることは出来ないの。もう、決めてしまっているから……』
『……日菜子ちゃんが、王子様に見つけてもらいたくてアイドルになったみたいに。……まゆは、まゆの運命の人と、一緒に居られると思ったから、アイドルになったの。』
『あの人はファンの皆が喜んでくれると、喜んでくれる。そして……あの人の喜びは、まゆの喜びのすべてだから……』
まゆはとうとう、そのアイドル活動の意味でさえ、運命の人と共にあるという落とし所を見つけてしまったのです。問いかけに答えることは出来ない、というのは、二者択一なんかじゃない、二つとも掴んでこそのアイドルであるという意味。佐久間まゆの強さの現れなのです。
先程保留にした話と繋がるのですが、まゆは元は一目惚れした人間がアイドルのプロデューサーだったため、一緒に居たいからアイドルになった、言わばまゆもアイドル活動は手段のひとつに過ぎませんでした。
ですがその手段を取る事に伴いある悲しい事実も着いてくることにまゆは気付きます。それはアイドルは決してある特定の人物と結ばれてはならないということ。
アイドルは誰しもに夢を見させる偶像であるべきであって、ある1人だけの夢であってはなりません。
ですが、その事実に気づいてからのまゆはもっと強かなのでした。
『こうしてアイドルを続けている限り、まゆと運命の人が、本当の意味で一緒になれるときは……来ないかもしれない。』
『でも……今はそれで構わないの。まゆがアイドルでいる限り……あの人のそばに居ることは出来るから……。』
結ばれなくても構わない。今は偶像としてファンの喜びと運命の人の喜びを傍で頬を緩ませながら見守っていたい。そのためにアイドルをしているのだ、と、手段すらを目的に変えてしまったのです。自らの禁断の愛をアイドル活動に昇華させる強かさは、16歳の少女にはきっと難しいことであったでしょう。ですがまゆはそれでも成し遂げるのです。なぜならファンが、プロデューサーが大好きだから。
「アイドルを好きでいること」
それから鷹富士茄子に呼ばれたまゆは日菜子にこのセリフを残して日菜子を後にします。
『日菜子ちゃん。アイドル、好きですか?』
こう問われ日菜子は答えます。
『えっ?そんなの……当たり前じゃないですか〜……。』
アイドル活動を嫌いなアイドルはアイドルマスターには居ません。それは日菜子だって同様です。アイドル活動を手段に選んでいるから二の次にしていいだなんて日菜子は考えていません。改めてその事実に日菜子は気付くのです。
『……良かった♪今日のステージも、頑張りましょうね。』
と、まゆは返します。1度手段としてアイドル活動をしていたまゆは日菜子の気持ちが痛いほど分かるのです。禁断の愛。アイドル活動に必ず伴ってくる宿命を一心に背負う辛さをわかっている故に、日菜子がアイドル活動を好きでいることにまゆは安堵をおぼえるのです。
それからプロデューサーに対峙した日菜子は、改めて自分がアイドル活動を好きでいる理由を語り始めます。
『今の日菜子は、アイドルするの、大好きになっちゃいました♪お嬢様みたいなドレスを着たり、かわいい歌を歌ったり、みなさんと、楽しい妄想を分かち合うのも〜。』
『だから……もし夢が叶って、本当に王子様が迎えに来てくれたら。日菜子、最初に、こうお願いしようと思います〜。「これからも、アイドルを続けさせてください」って♪』
……泣けませんかこのセリフ。王子様を見つける手段だったアイドル活動が、とうとう日菜子自身を楽しませる目的となった、歴史的な瞬間です。プロデューサーの本懐と言ってもいいでしょう。日菜子Pはとうとう日菜子にこう言わしめるプロデュースが出来たということですから。
『だって…アイドルとしてキラキラしてる日菜子を見せてあげることが……王子様にとって、幸せなこと……そう、信じてますから♪むふふ〜♪』
王子様を幸せにするために手段から目的へと変貌した喜多日菜子。
運命の人を喜ばせるために手段から目的へと変貌した佐久間まゆ。
2人は目的のためならどこまでも走ってゆける子達です。
そんな2人によるドリームアウェイ、是非ともご贔屓にお願いします。
イリュージョニスタ!は如何して素晴らしいのか
みなさんこんばんは。 今日はイリュージョニスタ!について語っていきたいと思います。
みなさんはイリュージョニスタ!を知っている、覚えているでしょうか?イリュージョニスタ!とは、アイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージの2周年を寿ぐイベントに際して作られた楽曲、所謂周年曲です。
イリュージョニスタ!には、2周年という節目を迎えるにあたって、アイドルマスターシンデレラガールズがどのようにこれからを創っていくか、ある種未来への果し状のような役目をがあるのです。
この前提を軸に論じていきましょう。
―何故イリュージョンはワンナイトでなければならないのか―
「ワンナイトイリュージョン ようこそ新世界」
という歌詞に代表されるように、イリュージョニスタ達は一夜限りの幻想にこだわりを見せます。
では何故、"一夜限り"でなくてはならないのか?
それは、娯楽はなま物である、という考えに拠るものと考えられます。
どんな面白いコンテンツも、そこに立ち止まりただ賞味期限を浪費するだけという訳には行きません。
これは、アイドルマスターのアイドルの視点からも、延いてはソーシャルゲームという視点からも考慮されるべき思想であるわけです。
これはアイドルマスターシンデレラガールズスターライトステージの2周年を寿ぐ曲でありながら、その枠に留まらず、アイドルマスター、そして夜に出回る全ての娯楽への挑戦状であるのです。
―忘れ去られたメリーゴーランド―
曲中最大のパンチラインとも言える、この歌詞
エモいという一言で済ませるには実に惜しい深さがあるのです。
メリーゴーランドは娯楽の一種で、誰かを楽しませることが出来ます。乗る人、それを撮る人、煌めきを眺める人。多くの人の心を確かに揺さぶるのです。
しかし、メリーゴーランドはその性質上同じところを何周も回ることしかできません。
揺さぶられた心は1度きりで、同じところを巡るメリーゴーランドに2度と心を動かされることは無いのです。
このことを「泡沫の煌めき」と見事に形容していることの素晴らしはは筆舌に尽くし難いものがあります。
だからこそ、手を替え品を替え、誰しもが忘れられないようなメリーゴーランドを作りあげるのだ、という意思が歌詞に内在するのです。
メリーゴーランドの馬を龍に変えてみるかもしれない、メリーゴーランドの位置を変えて景色を変えてみるかもしれない、或いはメリーゴーランドをやめてコーヒーカップを置くかもしれない。
この様子は、アイドル達が試行錯誤する他、運営がスターライトステージを如何にして面白くしようかと試行錯誤する姿、あらゆるコンテンツに於いてそのイニシアチブを握る者がコンテンツを面白くしようと試行錯誤する姿にもピッタリと当てはまるのです。
―納得の@、明日のSUPER ST@R―
少しでもアイドルマスターをかじっている方ならわかると思いますが、アイマスの上では@はひじょーーーーに重要な意味を持ちます。曲名に使われてる例では、M@GIC(デレマスアニメ2期最終回挿入歌)や、自分REST@RT(アイマスアニメ1期最終回挿入歌)、M@STERPIECE(劇場版挿入歌)などがあります。どれも作中の要となる重大な曲です。
その@をこの曲の歌詞中に忍ばせているというのは、アイドルマスターにとっても、この曲が非常に重要な意味を持つということと捉えるべきでしょう。
―ある意味怖いジェットコースター―
この曲の凄いところは、これだけの雄弁を有しておきながら、冷静さを一切欠かないところであるといえましょう。
「見切り発車じゃ誰もノれない ある意味怖いジェットコースターね」
ジェットコースターを発射するにも、まず乗客を席に乗せてベルトをつけさせてそれを確認してまたそれ以前に入念な点検があってと、見切り発車で飛ばせるものではないのです。
闇雲に変革を目指し、手を替え品を替えているだけでは、誰もついてくることは出来ないという自覚があるのです。変革と安定、このふたつは常に背反し、混ざることはないでしょう。
だけれども誰も置いていくことなく、進化を共に遂げていくという無理難題もこなしてやろうという強い意志が感じられると思います。繰り返しになりますが、それはデレステのみならず、あらゆるコンテンツにおいても同様なのです。
イリュージョニスタ!が未来のアイドルマスター延いては全ての娯楽への果し状であるというのはわかって頂けたかなと思います。
その姿勢こそが、イリュージョニスタ!の真髄であり、イリュージョニスタが素晴らしい所以でもあるのです。
ご静聴ありがとうございました。
過負荷「嘘吐きは偶像の始まり【メルヘンデビュー】」
「ナナで〜す☆」
「…」
「あ〜あ〜あ〜ちょっと引かないでください!ンン!」
「……」
「ナナは、ウサミン星からやってきたアイドル!安部菜々ですっ キャハッ☆」
「………」
「ちょっと〜!何か言ってくださいよ〜!」
「アンタ、何歳?」
「え、永遠の17歳ですっ☆」
「……そっか、じゃあ私帰るから」
「あ〜あ〜あ〜ちょっと待ってください!ンン!ナナはウサミン星…」
「それはもういいから」
「……」
「私は渋谷凛、アンタはナナさん、だよね。…… 嫌でも覚えちゃった。 アイドルとしては大成功ってところじゃない?」
「キャハッ☆ありがとうございま〜す!って!なんでさん付けなんですかぁ〜!」
「ねぇ、アンタってもしかして……」
「そう!ナナは何を隠そう!あの過負荷の一員で〜す!」
「ふーん、やっぱり…」
「凛ちゃんは、そうじゃないみたい、ですね」
凛はその一瞬漏れた殺気を逃すことなく知覚した。それは17歳では到底出すことの出来ないただものでは無い殺気であった。
「ちょっとぉ!ナナは17歳なんですぅ〜!」
「誰と話してるの…?」
「コホン!とにかく!ナナと凛ちゃんは敵同士!このウサミン!必ずや凛ちゃんを倒し、世界の平和を守っちゃいますよ〜!☆」
「へぇ、やる気なんだ……じゃあ」
凛の周囲には冷気が立ち込めた。凛のスキル「永久凍土に燃命【ネヴァー・セイ・ネヴァー】」は、分子の振動を衰退させる方向へ操るもの。凍らせることも出来るし、少し涼しくする程度にもできる。
「全力で……いくよ。-273℃の蒼【ブルーインフィニティ】ッッッッ!!!!!」
凛の右手から冷気の波動が放たれる。ナナと凛の間の空気は全て完全に分子の振動を辞めてしまった。
「……………キャハッ★」
菜々がブルーインフィニティに手をかざした瞬間、その蒼い波動は跡形もなく消滅した。一切の冷気も残さずに。
「……やっぱ、ただものじゃないね。」
「ナナはただのウサミン星のアイドルですよっ☆」
「そうだったら良かったんだけどッ!」
右手に唾を吐きかけた凛はその唾を凍らせ、巨大な氷塊を纏った。
その拳を振り上げ、菜々の元へ駆け抜ける。
「ッ!!!」
その拳は空を切った。氷塊の重みが凛の身体を投げ出した。
「ナナは負けません!★」
「なんでそんな所にッ………」
「ミンッ★」
「近いッ!?」
「キャハッ★」
身構えた凛に少しだけ触れ、いつもの決めポーズを凛の眼前で披露した。二人の間には無言の時間が流れる。菜々の身体がポーズの自重に耐えられなくなり震えだしている。
「キャ-!」
とうとう転んでしまった。凛が呆れて手を差し伸べ用とした刹那だったー
「!?ぐっ………!!あっ……ああああああああぁぁぁああああああああぁぁぁ!!!!!!!!!!」
「見たか!これがウサミンパワー!です!キャハッ★」
「アンタッ………一体何をしたの…………!!」
「ナナの過負荷「嘘吐きは偶像の始まり【メルヘンデビュー】」は、触れたものの時間を操る能力ですっ★ ナナは凛ちゃんの右手の時間をちょ〜っといじくって、"タンパク質だった頃"に戻してあげたんですよっ★ちなみに神経の時間までは戻してませんから、痛覚が完全に晒された状態ですね」
風が吹く度、晒された痛覚が異常なまでに反応し、凛の身体を貫くほどの痛みが奔る。
「はぁ……はぁ……ぐっ……」
凛はもう一度唾を吐きかけようとしたが、右手に氷塊を纏うことに伴う痛みは想像に難くなかった。
「ウサミーン、ダーッシュ!」
菜々は縦横無尽にフィールドを走り回る。17歳を大きくオーバーした身体ではキツかったのか、直ぐにバテてしまった。
「ウサミンは17歳です!オーバーしてなんかいませーん!ゼェゼェ………」
凛はそれに突っ込む余裕すらなかった。時間を操る過負荷、その対策を痛みを忘れるためのように考えていた。
「ミンッ★」
また一瞬にして凛の元に近づく。
「ッ!?!?」
思わずバックステップをしてしまう。この痛みが増えることなど懲り懲りだ。
「ん〜?」
右手をピストルに象り、こめかみに当てる。
「バ-ン★」
「何ッ………?」
「キャハッ★ナナ分かっちゃいましたよ〜!ウサミン星との交信、もとい未来の自分との交信ですっ!」
「意味わかんないけど……じっとしてても始まらない……いくよッ!!」
凛は駆け出す。痛みは増すばかりだが、止まっていては戦えない。痛みにも耐え、強くアスファルトを蹴る。
上空を冷気で包み、一気に落下させる。強烈な冷気と突風が吹き荒れ、並の身体では耐えることは出来ない。
しかし。
「ミンッ★ナナは凛ちゃんが何をするか全てお見通しですよ〜!」
「後ろッ!?」
平手で凛の背中を叩く。その瞬間凛の身体は前方へと全力で逃げ出す。
「おっとぉー!失敗してしまいましたー!」
「……背中が冷たい……」
凛の制服の背中が掌を象り破けていた。
凛は熟考した。なぜ菜々が瞬間移動出来るのか、なぜ行動を読まれるのか、なぜフィールドを走り回ったのか。
その思考はひとつの束になってある地点へ収束する。
(ナナさん自身の時間を操っている……?)
「…ねぇ、ちょっと訊いてもいいかな」
「なんでしょう?」
「ナナさんには……どんな未来が見えてるの?」
「……」
「先刻こめかみに指をやったとき……あれは自分自身の脳の時間を操ったんだよね? その途端に私の動きを読めるようになった……」
言い終えた途端、凛は菜々に背を向けて駆け出した。菜々と凛の距離は互いに可視化の範疇にいるが、それは17歳であるはずの菜々が駆けるには僅かに厳しい距離でもあった。
「………やっぱり… ナナさんは瞬間移動して来ない……」
「……見破られちゃいましたか☆そうです!ナナは未来の方向へも時間を操ることが出来るんです!ウサミン星の発達した技術により…」
「もういいよ」
凛は再び冷気を纏う。
「もうあなたの技は見切ったッ……! 」
菜々の周囲を冷気の壁が塞ぐ。瞬間移動する間もなく、菜々を冷気で押しつぶす気だ。
「絶対零度の贈り物【トラスト・プレゼント】ッ!!!!! 凍り付けッッッ!!!!!」
強烈な冷気は菜々の元へ収束し、跡形も無く凍りついた。菜々自身もその全ての冷気の時間を操るまもなく凍り付くはずだったー。
「やった……!」
次の瞬間、凛の足元に突然巨大な穴が出現した。
「何ッ………!?」
「ウ-サミンッ!今のはさすがに危なかったですよー!ナナが"大地の時間ごと"戻してなかったら、飲み込まれるところでした!凛ちゃんが今落ちてるその穴の下には、グラグラに茹だった温泉があります!効果は〜えーと……歳をとると記憶力がですねぇ〜……
っと……もう聞こえてませんか……」
渋谷凛は、真っ逆さまに地の底へ墜ちて行く。
「嘘吐きは偶像の始まり【メルヘンデビュー】」前編
完
過負荷「全ては白昼夢【エヴリデイドリーム】」
「お待ちしてましたぁ」
「アンタは…」
「まゆはまゆですよぉ 佐久間まゆ、です」
「アンタも過負荷の1人、みたいね」
「うふふ、察しが良くて何よりです」
「アタシは城ヶ崎美嘉!できれば…アンタとも戦いたくはないんだけど…」
「それは無理ですねぇ」
「そっか……じゃあ…」
美嘉の周囲に濃桃の魔法陣が展開される
美嘉のスキル、「圧倒的存在感【カリスマエスカレーション】」は、そのものズバリ自らの身体能力を上げるものだ。その力は単純だが心強い。
「強い偶像(ヒト)…まゆ、好きになっちゃいそうです」
「御生憎様、アタシはそっちのケは無いんだな」
言い終わると同時に美嘉の美脚は筋肉を充足させ、魔法陣を強力に蹴飛ばした。
その推進力は一瞬にしてまゆの眼前に辿り着かせる。濃桃の光の欠片が花弁のように舞い散る。
「入れッ!」
美嘉の右腕はまゆの美しい顔面を完全に捉えた、―ハズだった。
まゆは美嘉の視界には居なかった。空を切った拳はベクトルを背後にし、2回転した後に上手く着地した。
「何処な「後ろです♥」
その言葉通り背後を取るまゆ 顔と顔の距離は5cmにも満たない。
即座に美嘉はバックステップした。ーこの距離は拙(まず)いー
かんかんに熱した薬缶に触れた時のように神経と直感が先に反応したのだった。
「へぇ…さしづめ、アンタの過負荷は超高速移動、ってところかな!」
「まゆの愛は、そんな単純なものではないですよぉ」
言い終わるや否や、視界から消える。
「くっ……何処!」
次の瞬間、背中に鈍痛を覚える。やはり背後を取られた、そんなことを考える余裕はあるみたいだ。
「まゆ、貴女のこと、とっても好き……好きの気持ちが止まらないの……!!」
「ありがたいけど、その気持ちは行動に移して欲しいかな!!」
「?まゆはもうとっくに行動に示してますよぉ?」
「愛が歪みすぎだよ!」
カリスマエスカレーションを展開し、推進力をあげまたまゆの眼前に肉薄する。
「無駄です」
まゆは赤いリボンを幾重にも展開した。そのリボンは美嘉の身体を縛り上げ、全く身動きが取れなくなった。リボンに縛られているというより、寧ろ美嘉自身がリボンを拒んでいるかのような、そんな感覚がした。
「ぐっ……!……ヘヘ、そろそろ種明かし、してもりっても……いい…かな…!」
「……いいですよぉ、貴女といると、とっても楽しそうですし……
まゆの過負荷は「全ては白昼夢【エヴリデイドリーム】」、愛したものを遠ざける過負荷です。」
「愛したものを、 遠ざける…?」
「愛すれば愛するほど遠ざかってゆく……それってすごく切ないですよね 」
「ふーん……何言ってるかよく……わかんないかな…!アタシは…アイドルだし……!」
「アイドルだって愛するべき人がいるなら、愛するべきなんです……たとえそれがどんなに辛くて、切なくて、罪だとわかっていて、そして、際限なく愛おしくても……
でもまゆ、貴女のこともだぁいすきですよ……それはもう…愛(ころ)してあげたいぐらいに!!!」
地響きと共に周囲のレンガが一斉にまゆから離れてゆく。そして美嘉の上空へと密集した。
「「迷子の心の案内人【ラブ・デステニー】」… もう止められないの…!」
遥か上空から夥しい程の煉瓦が美嘉目掛けて落下していく。
「バッカじゃないの……!ぐっ……!「単なるメイク直し(エスカレート・エスカレーション)!」」
美嘉の周囲から濃桃の波動が放たれる。赤いリボンはちぎれ、煉瓦は粉々に砕けた。
「うふふ……素敵です…… やっぱりただの物体はただの物体……貴女のような強いアイドルには通用しませんね♥」
「アタシ、気立ってるから、その小憎たらしい笑顔をやめて……!」
「そんなこと言われると、より一層この心が貴女だけのものになっちゃいそうです♥」
背後からの声、気が立ち、ありとあらゆる感覚が研ぎ澄まされた美嘉でも、その一瞬を捉えることは出来なかった。その瞬間
「知ってますかぁ?私達が愛を育むこの地球は、とーっても丸いんですよぉ?」
「あんたまさかっ……!地球を1周している………!?」
またリボンが放たれ、縛り上げる。前よりも強く、美嘉の身体がリボンを反発する。
美嘉自身の強化と、まゆの能力の強化がかち合い、すべての負荷が美嘉の身体を容赦なく捻り潰す。
「ぐっ……がぁ……あっ………!!」
「うふふ、アイドルがそんな顔しちゃダメですよぉ♥……もーっと美しく、お化粧しなきゃダメみたい、ですね」
美嘉を縛るリボンを繋いだまゆは、その身体を美嘉から「離れ」させ始めた。犬の死体を引き摺るように、まゆはフィールドを超高速で移動する。美嘉の身体は地面との摩擦で削れ始めていた。
「うふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!まゆ、愛したのものとこんな風に離れずに済むなんて、とーーーーーーーっても幸せです♥♥♥♥♥」
何千キロも駆け巡った美嘉の身体は土埃に塗れボロボロであった。勿論満身創痍で話すことも困難である。
「貴女も…そうなんですね。まゆが愛した人は壊れてしまう。だから遠ざけるしかなかったんです。アイドルは本当は誰かひとりを愛してはいけないんです……まゆは悪い子です…まゆは…悪い子…悪い子………」
「そう…かな…」
「…………あら…?」
「アンタ……さ…アイドルになったからって、愛することを我慢してきたとか……思ってるかもしれないけどさ…アイドルって、そういうものじゃないんだよね… ファンを楽しませるために自分を磨いて…そのためならどんな努力だって惜しまない…。それさえできれば、もうそれはアイドルなんだよ…?」
「………まだ話せる余裕があるなんて…」
「アタシも、アンタも、トップを目指すアイドルでしょ…?アンタはそのモチベーションがアンタが言う、愛だった……違う?」
「…!!…貴女に何がわかるんですかぁ…?」
「図星、って顔してる。分かるよ!貴女は愛を追い求めて、求める手段にアイドルを選んだ、ってところかな。どんな愛、どんな理由があったか迄は分からないけど、あれほどの強い力、相当な愛への執着、だね!」
そういって美嘉は泥と血に塗れた顔を綻ばせてみせた。
「……たった数分出会ったばかりの貴女に…まゆのこの痛みをわかってもらう訳にはいきません。
…"城ヶ崎美嘉ちゃん"、まゆは貴女が嫌いです。まゆの愛を分かった気にならないでください。」
そう言うと先程とは比べ物にならないほどの量の赤いリボンがまゆの背後からの現れた。リボンはまゆから離れ、やがてひとつの所に固まってゆく。巨大な赤いリボンの塊が出来た。
「…"まゆ"、アタシはまゆのこと、結構好きかな!トップになりたいって強い気持ちがなきゃ、そこまで強くなれないもんね!」
「ッ!!!!!黙れェェェェェ!!!!!!!!」
その塊は巨大さ故に不気味なほど遅く見えるが、恐ろしいスピードで美嘉を目掛けた。
「愛は、まゆを遠ざけたりしない…」
魔法陣が展開される。極限まで大きい魔法陣だ。カリスマエスカレーションは、輝きたいと思ったその時により一層効力を発揮する。
美嘉はアイドルとしての輝きをまゆにも教えてやりたかった。まゆには愛する人を追うことも、それをアイドルとしての輝きに昇華させることも両方出来る、そのことを教えてやる必要があった。
だから、城ヶ崎美嘉は輝いた。
「「メイク直し【エスカレーション】」ッ!!!はぁぁぁぁ……!!」
濃桃はさらに強く色めく。
「光に満ち溢れた未来【グロリアス・グロウ】! !!」
美嘉の伸ばした右手から、濃桃の巨大な光線が放たれた。赤いリボンの塊と激しくぶつかり合う。美嘉が優勢である。リボンの塊は、落ちる時よりも速くまゆの元を目掛けてく。
「嘘ッ……!そんな……!まゆが……まゆがこんなにも感情を昂らせているのに……!遠ざかって……!!嫌ッ……!来ないで………来ないでェェェ!!!!!」
塊ごと美嘉のグロリアス・グロウはまゆを貫いた。
まゆはその場に倒れ込んでしまった。美嘉はその亡骸のような姿に歩み寄る。
「ねぇまゆ、アタシと一緒に戦わない?」
「………」
「アタシ達が手組んだらきっとサイキョーのユニット出来ちゃうよ★ 」
「………お断りします…
まゆには…まゆにはトップになることを捧げた人が居ます… その人を思うほどにまゆは強くなれるんです… でも……」
「でも?」
「美嘉ちゃんの言ったこと、まゆはきっと忘れません。愛を追いながら、ファンのみんなを楽しませるその力に変える。まゆは両方掴み取ってみせます。」
「うん!その意気、サイコー★」
「では、まゆはこれで…… 他の過負荷、貴女に耐えられるかしら……?」
まゆは美嘉を後にした。その離れゆく背中は能力によるものでなく、自分の意思で離れていく。
過負荷「全ては白昼夢【エヴリデイドリーム】」
完